商品と“心”をつつむ「貼り箱」の可能性|vol.31 2017 SPRING|TSUNAGU WEB

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vol.31 2017 SPRING 商品と“心”をつつむ「貼り箱」の可能性

商品と“心”をつつむ「貼り箱」の可能性

「貼り箱」とは、厚紙で組み立てた箱に、表情豊かな紙を貼った紙器のこと。
すべてが紙でできているのに強度があり、耐久性も十分。
箱そのものの形状や構造、貼り合わせる印刷紙のデザインや箔押しなどの加工を組み合わせることで
商品の魅力やブランド価値、上質感や高級感を表現するツールです。
長崎・波佐見町にある「岩嵜紙器」は、高品質な「貼り箱」をつくり続ける老舗パッケージメーカー。
確かな技術力と柔軟な発想で、地方から全国へと新たな提案を続ける、同社の取り組みとビジョンをご紹介します。

株式会社 岩嵜紙器

●本社
長崎県東彼杵郡波佐見町田ノ頭郷201-1
TEL 0956-85-2127
●福岡営業所
福岡県福岡市博多区銀天町3-6-29-403号
HP:total-package.jp

岩嵜大貴社長(写真:右)と企画部長を務める
奥さまの裕子さん。

普段何気なく使っているたくさんの日用品や食品。箱を開けて取り出さなくても何に使う商品かが分かるように、私たちは商品のパッケージからさまざまな情報を受け取っています。またパッケージは、商品を“包む”という梱包資材としての機能と併せて、商品のオリジナル性と上質感を演出し、ブランドの世界観を伝えるためのブランディング・ツールとしての重要な役割も担っています。

「長崎県中央部に位置する東彼杵郡波佐見町。江戸時代から400年以上続く陶磁器の産地において、職人の手作業による“貼り箱”を中心に、企画・デザインから製造・加工までを一貫して手がけているのが岩嵜紙器です。「もともとは、陶磁器を都市部に発送するための段ボール箱づくりのみを手がけていました」。そう語るのは、岩嵜大貴社長。器としての美しさだけでなく、工芸品としても高い評価を受ける日本の陶磁器。その製造を地場産業とする地域には関連ビジネスとして必ず紙器メーカーが存在し、焼き物とともに成長を続けてきたという背景があります。「祖父が当社を創業したのが1960年。私で三代目となるのですが、バブル崩壊とともに陶磁器自体の生産量が減少。廉価な海外製にとって変わることが多くなり、私が入社した頃にはパッケージの売上もかなり減少していきました」と岩嵜社長は話します。安価な箱に押され、全国にある紙器メーカーが次々と廃業に追い込まれていくなか、岩嵜社長は立て直しを図るために自社の強みを見直すことからはじめたそうです。「長年の経験による職人的な貼り箱づくりの確かな技術と経験、ノウハウがあれば、窯元以外の取引先を開拓できるんじゃないかと。梱包資材としての箱だけでなく、ギフト用の化粧箱など商品の幅を広げれば、ビジネスチャンスは無限にあるわけですから」。地元・波佐見町からはじまった企業への飛び込み営業はほどなくして福岡にまで拡大、首都圏での展示会出展を機に、日本全国にあるさまざまな業種のメーカー、代理店と取り引きを行うまでに発展していったそうです。単に商品を保護するためのものだけでなく、“つくり手の思いをかたちにする箱づくり”へと飛躍することで、トータルパッケージ企業としての地位を確立していきました。

“貼り箱”は、厚紙を芯材として箱型に組み立て、そのうえから化粧紙を貼り合わせることでつくられます。ベースとなる芯材は強度が高く衝撃吸収性に優れているので、さまざまな商品のパッケージとして広く採用されています。「まずは、紙製であることが重要です。ほかの材料と比べて重量が軽く、商品やそのコンセプトに合わせて変幻自在に成形できますし、基本的に紙だけでつくるものが多いので、環境に優しいのも利点ですね」と岩嵜社長。また芯材のうえに印刷した紙を貼り合わせるので、デザインも自由自在。紙自体の色、質感、風合いにこだわることで、商品の魅力を最大限に表現できるパッケージとして、高級商品や限定商品などに採用されています。

受注生産によるオリジナルの貼り箱づくりは、中に入れる商品を預かることからスタートするのが通例。それをもとに3Dソフトを使って緻密に設計し、いくつものサンプルをつくって検証、顧客との打ち合わせを重ねながら完成形に近づけていくそうです。「いろいろなご依頼がありますが、なかには中に入れる商品はあとで考えるから、先に素敵なパッケージをつくってほしいというご依頼も。貼り箱そのものの価値を評価していただけているので大変ありがたく思います。でも、私たちは商品のコンセプトや商品化までのストーリーを理解できていないと、ベストの仕上がりまでにどうしても時間がかかってしまいます。私たちが大切にするのは、商品に込めた思いをかたちにすること。それさえあれば、表現方法はいくつでもご提案できます」(企画部長・岩嵜裕子さん)。岩嵜紙器の貼り箱は、フォルムとしての美しさだけでなく、生産者が伝えたい思いを受け取る人へと伝える、伝達者としての役割も担っているのです。

国内外から取り寄せた紙の在庫は300銘柄を超える
国内外から取り寄せた紙の在庫は300銘柄を超える
社内の工房に、箔押し用の金属箔を数十種類取り揃えている
社内の工房に、箔押し用の金属箔を
数十種類取り揃えている
箱の形状に打ち抜くための刃物を埋め込んだ「木型」
箱の形状に打ち抜くための刃物を埋め込んだ「木型」

展開図の形状に合わせて断裁した厚紙に、刃物を埋め込んだ木型を使ってきれいに折り曲げるための筋を入れ、不要な部分をカット。そのうえに専用の糊を塗布した化粧紙を貼り、一つひとつていねいに組み立てることで、ようやく貼り箱が完成します。「貼り箱用にカスタマイズした機械を使いますが、そのほとんどが手作業。うちは他社さんが断るような複雑な形状や構造の貼り箱でもお引き受けするようにしてきたので、スタッフの技術や応用力が自然と身についたのではないでしょうか」と岩嵜社長。また、女性が多いことも、同社の特徴のひとつ。「手先を使う細かい作業が多いので、女性の方が向いている部分もあると思います。より複雑なものに挑戦したい人もいれば、組み立てるスピードが早い人、多角形が得意な人やハート型が上手な人などスタッフそれぞれに得意分野があるので、個性を生かした配置と役割を考えることを大切にしています」と岩嵜裕子さんは話します。生産部門のスタッフは、約50名。貼り箱の大枠づくりを担当する男性の力強さと、女性ならではの繊細さを組み合わせることが、高い品質と生産性を可能にしているのです。

「きれいに仕上げるのは、当たり前。思いを込めて、一つひとつていねいに」

オリジナルブランド“AKERU PROJECT”

「箱を開ける一瞬の感動を演出したい」。受注生産に特化した事業を展開してきた岩嵜紙器が、そんな思いから立ち上げたのがオリジナルブランド“AKERU PROJECT(アケル プロジェクト)”です。「同じことをしていては企業に発展はありませんし、他社にはない新しいものに挑戦したいという思いがありました。パッケージの生産はコア事業のひとつ。“感動を演出する”ということを軸に発想を広げていけば、技術と生産力を有するメーカーとして、クオリティの高い商品を発信できるはず」(岩嵜社長)。

現在までに発表した同ブランドのラインナップは、全5シリーズ160アイテム。貼り箱づくりの技術を生かした収納ボックスから、クラッチバッグ、アウトドアでの実用性も高いマットまで、自由な発想と飽きのこないクラシカルなデザインの商品が揃います。またそれらがすべて“紙製”であることにも驚かされます。さらにギフトボックスには、ニットと刺繍針(厚紙製)が付属されているものも。「箱のフタ部分に等間隔の丸い穴が開いていて、伝えたいメッセージや模様を刺繍によって表現する商品です。これは外部のクリエイターの方とのコラボレーションによるものですが、このような取り組みは今後も増やしていきたいと思っています」と岩嵜社長。オリジナルブランドの開発を通じて広がった人脈は、受注生産部門にも波及しています。そのひとつ “世話焼き紙器”は、パッケージをつくりたいという企業向けに、岩嵜紙器が商品と相性のいいデザイナーを無償で紹介するマッチング・サービス。「お客さまご自身が、商品の内容に応じてデザイナーを選択できたらいいんじゃないかと。デザインのテイスト、得意分野、個性の異なるデザイナーさんをご紹介できる体制を、徐々に整えて行く予定です」と岩嵜社長は語ってくれました。

揺るぎない技術力と長年にわたって蓄積されたノウハウ、均一した高品質を維持する生産体制を礎に、柔軟な発想力とたくさんの出会いで得たものを加えながら新しいビジネスモデルを構築していく岩嵜紙器。変革し続ける老舗パッケージメーカーの挑戦は、まだはじまったばかりです。

INFORMATION

○「AKERU PROJECT」オンラインショップ
HP: total-package.jp/akeru-project
○展示会出展
「第1回インテリアEXPO」 
2017年7月5日(水)~7月7日(金) 
東京ビッグサイト 東ホール