王子キノクロスはこのほど、放射性セシウムの吸着材料として使用できる可能性がある、セシウム除染用ゼオライト不織布の開発・商品化に成功した。
ゼオライトは高いイオン交換能を持つ鉱物で、以前から水質改良材として用いられてきた。さまざまなイオンを交換・吸着するが、特に放射性同位元素を含む汚染水の処理では、放射性セシウムを吸着する研究例が報告されている。
王子キノクロスでは、独自技術のTDSプロセス(Totally Dry System)によって製造したゼオライト不織布が、放射性セシウムの吸着性に優れると考え、開発を進めてきた。TDSプロセスとは、目的に応じた表裏面材を使用し、中層はパルプに熱融着性の繊維や粉体をブレンドしたものをエアレイド法でウエブを形成、オーブンで熱接着させる仕組み。水を一切使用しないため、粉体・繊維などの機能を損なわない状態でシート化でき、合成繊維100%不織布も可能。水系の接着剤を使用せずに不織布内部に多量のゼオライトを保持できるため、ゼオライトの機能を最大限に発揮できる。
TDSプロセスで製造するゼオライト不織布は、ゼオライトの含有量をコントロールできることに加え、用途に応じて表裏の不織布素材や処方を変え、柔軟性、強度、耐水性をコントロールできる。使いやすくコンパクトなため、セシウム汚染水の除染用として期待される。
ゼオライト不織布の性能については、東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻の三村均教授に評価を依頼。その結果、海水、アルカリ性液体、酸性液体、それぞれの条件の汚染水からセシウムを吸着でき、従来の粒状ゼオライトよりも高機能化が可能で、セシウム吸着速度の向上、物理化学的安定性など優れた性能を持つことが明らかになった。さらに、実際の放射性セシウムを使用した評価でも吸着性能が確認できている。この結果は、12年9月の日本原子力学会と13年2月の放射性廃棄物処理国際会議で発表される予定。
また、汚染水だけでなく汚染された土壌や樹木についても水を介在させることによって除染できる可能性が高いことから、現在ゼオライト不織布を用いた除染の実用評価を進めている。
株式会社 紙業タイムス社 「Future5/21号」より