ペーパーアーティスト「小紙陽子さん」繊細なロールアート「ペーパークイリング」|vol.27 2016 SPRING|TSUNAGU WEB

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Vol.27 2016 WINTER 繊細なロールアート「ペーパークイリング」

繊細なロールアート「ペーパークイリング」

ナチュラルな色彩と繊細かつ高度なテクニックによって生み出される、四季折々、色とりどりの植物たち。
欧州の伝統的なクラフトである「ペーパークイリング」は、
その多彩なテクニックと表現のバリエーションから世界中に愛好者が広がっています。
紙の風合いを生かしたナチュラルで叙情的な美しさを、日々の暮らしに取り入れてみませんか?

ペーパーアーティスト 小紙 陽子 (こがみ ようこ) さん
ペーパーアーティスト
小紙 陽子 (こがみ ようこ) さん

1976年生まれ、千葉県出身。
デザイン事務所でグラフィックデザイナーとして活動していた際、世界的なクイリング作家、マリンダ・ジョンストンの作品と出会い、創作活動をスタート。企業広告への作品提供のほか、昨年5月には初の個展を開催するなど、精力的な活動を続ける。小紙クラフト主宰。「ボタニカルクイリング・ジャパン」クリエイティブアドバイザー。
http://kogamicraft.com/

リボン状に細長くカットした紙を、ニードルを軸にして渦巻き状に巻き付けパーツを作成。それらを緻密に組み合わせることで描き出される造形作品が「ペーパークイリング」です。その起源は古く、15〜16世紀頃。ヨーロッパの修道女たちが聖書の製本で余った紙を鳥の羽に巻き付け、宗教画の縁を装飾したのが原型だと言われています。長い歴史を持ち、欧米を中心に多くのファンを惹きつけるこのペーパークラフトは、刺繍のようなシンプルな技法と造形の深さから日本でも広く愛好者を増やし続けています。

雄しべや雌しべ、花弁や花軸の形状や質感までもがていねいに表現された美しい作品の数々。自然のものと見間違うほどの繊細な色彩と、紙の柔らかい風合いを生かした精巧な造形は、あまりの完成度に目を疑うほどです。作者は日本を代表するペーパークイリング作家のひとり、小紙陽子さん。彼女のこれまでの歩みと作品に対するこだわり、その世界観に迫ります。

植物本来の繊細な色を大切に、
ずっと眺めていたくなるような作品をつくり続けていきたい。

 「"小紙"という名前は、本名なんですよ(笑)」。照れくさそうにそう話す彼女は、新聞販売店を営む家に育ち、折り紙を趣味とする父親の影響もあって、常に"紙"に囲まれた環境に育ちました。「子どもの頃から絵を描くことと工作が好きだったので、自然とクリエイティブの世界に憧れを持つようになりました」という小紙さん。かつて、専門学校ではイラストレーションを専攻、デザイン事務所に入社してからはグラフィックデザイナーとして活躍していました。「当時、ハンドメイド雑貨の通販カタログを担当していたのですが、そこで紹介していた商品のひとつにペーパークイリングの手づくりキットがあったんです。誌面で紹介するためのサンプルが必要となり、手先が器用だという理由で私が指名されてつくったのが最初ですね」。その作品の高い完成度が評判を呼び、小紙さんのつくるペーパークラフト作品がのちに担当する園芸カタログ紙の表紙を飾ることに。約5年にわたって、季節の植物をモチーフにしたオリジナル作品を制作し続けることになったそうです。「ある日、増えていく作品を見た当時の上司から、ペーパークイリングのハウツー本を出版してみないかという話をいただいたんです。そこで基本的なパーツのつくり方からベーシックなデザイン、アレンジ方法までを紹介する本をつくり、出版させていただいたんです」。この本に掲載されている作品はもちろん、文章やデザインもすべて、小紙さんが担当。当時の日本ではまだ馴染みの薄かったペーパークイリングを世に広く紹介すると同時に、自身の創作活動に力を注ぐきっかけになったそうです。

 その後、デザイン事務所を退社した小紙さんは、フリーのグラフィックデザイナーを兼務しつつ作家として独立。企業からの依頼を受け、カレンダーなどの広報ツールやカタログ誌の表紙、TVCMのビジュアルイメージ用にと、多くの作品を発表し続けています。そうした創作活動と並行して取り組んでいるのが、ペーパークイリングの普及活動です。「植物をモチーフに創作活動に励むクイリング作家の支援や講師育成を目的とする"ボタニカル・クイリングジャパン"という団体が設立され、私はクリエイティブアドバイザーとして参画しています。展示会や作品集の出版、デザイン講座への参加を通して、ペーパークイリングがアートとして広がってほしいと思っています」とのこと。個性豊かな表現によって、アートとしての価値を高めたいという小紙さんの思いは、若いアーティストを中心に、着実に広がりつつあります。

小紙さんの作品の特長は、人為が加わることのない自然の色を大切にする、そのナチュラルなカラーリングにあります。「作品は、パソコンで描いたラフデザインを基に創作するのですが、造形をはじめる前に必ず行うのが、色見本をつくること。植物のパーツごとに、近い色を選んだり、混色したりする工程は、神経を使いますね。アマチュアの方やほかの作家さんは、市販の色紙や専用のキットを使われる方が多いのですが、それでは表現したい色が限られてしまう。私は、自然の植物が持つ繊細な彩りやグラデーションの美しさを大切にしたいので、市販の色紙は使いません」と小紙さん。着色に使用するのは、コピックという発色の良いアルコールインクのマーカー。350を超える色のなかから最適な1色を選び、ときには複数の色を重ね塗りすることで、作品のイメージに近づけていくそうです。「使用する紙やマーカーのインクの残量、紙を丸めた時の陰影によっても印象が変わる」と言うほどのこだわりが、小紙さんの作品のクオリティを支えています。

  • 第一工程として、パソコンで原寸大のラフデザインを作成。

  • 作品に使用する色見本は事前に用意。

  • 花弁や花軸などパーツごとに細かくつくり、組み合わせていく。

  • 小紙さんが使用する道具。

  • レイクシティ社が販売しているキット商品。初心者におすすめ。

  • 第一工程として、パソコンで原寸大のラフデザインを作成。

  • 作品に使用する色見本は事前に用意。

  • 花弁や花軸などパーツごとに細かくつくり、組み合わせていく。

  • 小紙さんが使用する道具。

  • レイクシティ社が販売しているキット商品。初心者におすすめ。

材料選びの基準は、厚さと張り。
紙の柔らかさと風合いを表現できる和紙が私の作品に最適なんです。

圧巻のリアリティを追究する小紙さんの作品は、実に繊細かつ精巧。植物を構成する一つひとつのパーツは、床に落としたら見分けがつかないほど小さなものです。「アメリカのレイクシティ・クラフト・カンパニーなどが販売する、あらかじめカットされた既成品もありますが、その主流は3ミリ幅。私は1〜1.5ミリ幅の紙を使用するので、自分で紙をカットするところからはじめます」と小紙さん。また使用する紙にも小紙さんならではのこだわりがあります。時間をかけて試行錯誤した末に行き着いたのが、水墨画の練習に使う和紙だったそうです。「切り込みを入れたり、折り目をつけて丸めたり。細かい細工を施すので、紙の張りと厚み、インクのにじみ具合が重要なんです。またペーパークイリングは、あくまでも紙であることが伝わらなければ意味がありません。紙の柔らかさや風合いを表現できる、和紙特有の毛羽立ちも重要なんです」とのこと。花粉が飛んできそうなほどの精巧な細工。そのつくり方が想像できないほど緻密につくり込んでいく作風が、見る者を作品の世界に引き込んでいくのです。

ペーパークイリングの魅力は、シンプルな技法を使って気軽にものづくりを楽しめること。また、デザイン性を加えることで、その活用方法はさらに広がっていきます。「大切な人に贈るカードにペーパークイリングでつくったパーツを装飾するだけで、つくり手の思いがより一層引き立ちます。また、写真を飾るフォトフレームやオブジェに付加するだけで、部屋のインテリアのアクセントとしても楽しめます」と小紙さん。そんな彼女が今後のコンセプトとしているのは、普段の生活のなかにアートを提供していくこと。「部屋に飾ってもらって、ずっと眺めていたいと思えるような作品をつくっていきたいと思っています」。暮らしのなかに紙とアートを取り入れる。自然の美しさを表現するペーパークイリングは、疲れた心に潤いをもたらすはずです。