紙で質感を表現する「ペーパーアニマル」|vol.39 2019 SPRING|TSUNAGU WEB

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vol.39 2019 SPRING 紙で質感を表現する「ペーパーアニマル」

紙で質感を表現する
「ペーパーアニマル」

1枚の紙を切ったり、曲げたり、貼り合わせたり。
紙の特性を活かし、表現豊かな造形を生み出すペーパークラフトはアートの中でも人気が高く、
日本はペーパークラフト先進国として海外からも高い注目を集めています。
和田恭侑さんは、さまざまなテクスチャーと色の紙を使いわけ、
独特のリアリティを持つ動物作品をつくるペーパークラフト作家です。
その1枚の紙からつくり出す、生き生きとした動物たちは、
誰をも夢中にさせてしまう、温かい魅力に溢れています。

和田 恭侑さん

ペーパークラフト作家
和田 恭侑さんYASUYUKI WADA

1982年大阪府生まれ、千葉県在住。
2006年神戸芸術工科大学プロダクトデザイン学科、2008年同大学院卒業。2009年、イラストレーター寺田順三氏とのコラボ展を機に、作家として本格的デビュー。雑誌媒体への作品提供のほか、展示会、ワークショップ、TV番組出演など幅広い活動を展開中。2014年以降は紙の組み立てキットブランド「gu-pa(グーパ)」の製品デザインを手がける。
HP:www.injan.net

「平面の紙を立体の動物にすることで、新しい価値が生まれる」

「紙立やまたに動物園」(2011-12)
20種類の動物モデルと自然のジオラマとを組み合わせて楽しめるミニ動物園キット。写真の動物のほか、ゾウやライオン、コアラやアルパカなど人気の動物がそろう。

僕がペーパークラフトに取り組みはじめたのは、芸術大学に通っていた学生時代のこと。小学生を対象にした展示とワークショップを企画して、ランドセルのペーパークラフトを展示したのですが、そこで僕の作品を観て目を輝かせている表情や夢中で紙を折る子どもたちの様子を見て、将来はものづくりの楽しさを伝える何かができればと思うようになりました。卒業制作では、組み立てながら昆虫の特徴を学べるペーパークラフトの図鑑を制作。卒業後は大学院に進み、ペーパークラフトの設計と造形に打ち込みました。当時から動物をモチーフにした作品をつくっていて、完成に至らない作品は捨てることになるんですけど、いつからか立体になった動物を潰して捨てることに罪悪感を覚えるようになりました。ただの平たい紙が動物のカタチになることで生命が宿るように思えたし、別の価値が生まれる面白さに気づいたことで、さらにのめり込むようになりました。大学院卒業後は作家として生計が立てられるかどうかの期限を2年と決め、デザイン事務所を中心に営業活動を続けました。当時は関西在住でしたが、ペーパークラフト作家の先輩方が多く活躍している東京へと通い、貴重なアドバイスをいただくこともありました。それから徐々にペーパークラフトの制作依頼が増え、テレビに出演する機会もいただき、作家として活動していくことに自信が持てるように。その後、より価値のある仕事を求めて関東に移住することにしました。

「head box」(2014)
紙の組み立てキット「gu-pa(グーパ)」の第一弾として発売された製品。部屋のインテリアとしてはもちろんのこと、動物の頭は箱状になっているので、ギフトボックスとしても使用できる。カバ、シカ、ゾウ、ウサギ、クマの全5種類。
「動物っぱな」
動物の特徴的な鼻をモチーフにしたペーパークラフト。接着剤を使わずパーツを差し込むだけでつくれるので、子ども向けワークショップなどで人気の作品。ブタ、ゾウ、ウサギ、ライオン、セイウチ、オオカミの全6種類。


和田さんの作品づくり

正面、真横などの画像資料を並べつつ、試作用のコピー用紙を切り貼りしながら立体化。
完成形をもとにプロッターを用いて展開図を設計。

まずはモチーフとなる動物、使用する紙を決め、さまざまな角度から撮影した画像資料を収集。作品によってスケッチを描いて完成形のイメージを膨らませる。
①正面、真横などの画像資料を並べつつ、試作用のコピー用紙を切り貼りしながら立体化。丸鉄筆で折り筋をつけたり紙用ボンドで造形したりと、全体の比重バランスと強度を考え、しっかり自立できるよう細かい調整を施す。
②完成形をもとにプロッターを用いて展開図を設計。各パーツのジョイント部分やのりしろなど、組み立てに必要な調整を行う。
③組み立ての順序を考慮し、参考図入りの説明書を作成。製品化する作品はトムソン(型抜き)加工やレーザーカットを施し、構想から約5カ月で製品化される。

紙の質感からモチーフを選び、
リアリティのある動物をつくりたい

作家活動をはじめて数年後、僕の作品を観てくれたある編集者の方に声をかけていただき、本を出版することになりました。紙の箱と器をテーマに、25種類のペーパークラフト作品とそのレシピを紹介するもので、造形そのものの魅力や紙を生活に取り入れて実用的に楽しむことなど、改めて紙と向き合う機会となりました。その後、個展にお誘いしたのをきっかけに、印刷・加工の技術とデザイナーのアイデアを組み合わせた紙製品を数多く手がける福永紙工(東京都立川市)さんと恊働※プロジェクトを立ち上げ、ペーパークラフトの組み立てキットを販売していただくことになりました。そのうちのひとつ、「TOPTOTAIL」シリーズは、動物のリアルなフォルムを追求した組み立てキットで、体の一部が可動式になっています。また、ワニにはワニ皮のようなエンボス加工のある「クロコGA」という紙を使うなど動物の肌や毛並みに近い質感の紙を使うことで、リアルさを表現しています。この紙だったらこんな動物がつくれそうだなと、紙を前提にモチーフの動物を考えることもあります。僕は自分の作品に「マーメイド」というファインペーパーをよく使います。カラーバリエーションが豊富で適度なコシがあるので使いやすく、ふっくらとした質感が柔らかさを表現できるので気に入っています。今後は、紙に糸や毛糸などファブリック系の異素材を組み合わせた作品にも挑戦しようと思っています。

「宝石の箱(Ⓐ〜Ⓔ:クリスタル、エメラルド、サファイヤ、ルビー)」と「ダイヤカットの箱(Ⓕ)」 「宝石の箱(Ⓐ〜Ⓔ:クリスタル、エメラルド、サファイヤ、ルビー)」と「ダイヤカットの箱(Ⓕ)」。
宝石の箱はふたと容器に分かれていて、小物入れやギフトボックスにも使用できる。
同じパーツを複数貼り合わせてつくる「シマシマボウル」 同じパーツを複数貼り合わせてつくる「シマシマボウル」(Ⓐ)と「つらなる小箱」(Ⓑ、Ⓒ)。
四角すいの集合体「あじさいの箱」(Ⓓ、Ⓔ)はガクの部分を閉じることができるので、ギフトボックスとしても。

僕の作品を通して、
子どもたちにものづくりの
楽しさを伝えたい

僕の作品を通して、子どもたちにものづくりの楽しさを伝えたい

これからの目標のひとつは、子どものための工作教室を開くこと。かつては紙の工作キットの付録付きの雑誌が数多くありましたが、今は完成品がほとんど。また雑誌自体が減っていることもあって、学校の図画工作の授業を除くと子どもたちが紙を使ってものづくりをする機会は減っている印象があります。紙はとても身近で扱いやすい素材です。自分の手を使って平面の紙から立体へと、イチから作品をつくり上げる楽しさや達成感、ワクワクするような体験をできるだけ多くの子どもたちに味わってほしいと思いますし、僕の作品がそのきっかけになればうれしいですね。今、福永紙工さんから発売している動物の組み立てキットシリーズの新作に取り組んでいます。動物は世界中で愛されていますし、普遍的な魅力があるモチーフです。流行りすたりのない定番の紙製玩具として、世界中の子どもたちに長く愛される作品をつくり続けていきたいと思っています。

生き物をモチーフにした「鳥の編込みプレート」(Ⓐ、Ⓑ)と「魚のプレート」(Ⓒ、Ⓓ)。部屋のインテリアとしてだけでなく、テーブルウェアとしても楽しめる。 生き物をモチーフにした「鳥の編込みプレート」(Ⓐ、Ⓑ)と「魚のプレート」(Ⓒ、Ⓓ)。部屋のインテリアとしてだけでなく、テーブルウェアとしても楽しめる。
「紙のプレゼントリボン」(Ⓔ、Ⓕ)は、ギフトボックスを飾るオーナメントとして。紙のアクセサリー類は、身に着けられる紙アイテムとして女性にも人気の作品。 「紙のプレゼントリボン」(Ⓔ、Ⓕ)は、ギフトボックスを飾るオーナメントとして。紙のアクセサリー類は、身に着けられる紙アイテムとして女性にも人気の作品。
「家の箱」(Ⓖ、Ⓗ、Ⓘ)は、ふたと容器がセパレートになっていて上下に取り外すことができる。「勲章ブローチ」(Ⓙ)、「星のオーナメント」(Ⓚ)は観賞用として。六角形をつなぎ合わせて自由につくる「ハニカムトレイ」(Ⓛ)は、小物を置くトレイとしても使える。 「家の箱」(Ⓖ、Ⓗ、Ⓘ)は、ふたと容器がセパレートになっていて上下に取り外すことができる。「勲章ブローチ」(Ⓙ)、「星のオーナメント」(Ⓚ)は観賞用として。六角形をつなぎ合わせて自由につくる「ハニカムトレイ」(Ⓛ)は、小物を置くトレイとしても使える。

左上:生き物をモチーフにした「鳥の編込みプレート」(Ⓐ、Ⓑ)と「魚のプレート」(Ⓒ、Ⓓ)。部屋のインテリアとしてだけでなく、テーブルウェアとしても楽しめる。

右上:「紙のプレゼントリボン」(Ⓔ、Ⓕ)は、ギフトボックスを飾るオーナメントとして。紙のアクセサリー類は、身に着けられる紙アイテムとして女性にも人気の作品。

左下:「家の箱」(Ⓖ、Ⓗ、Ⓘ)は、ふたと容器がセパレートになっていて上下に取り外すことができる。「勲章ブローチ」(Ⓙ)、「星のオーナメント」(Ⓚ)は観賞用として。六角形をつなぎ合わせて自由につくる「ハニカムトレイ」(Ⓛ)は、小物を置くトレイとしても使える。

紙の組み立てキット「gu-pa(グーパ)」

和田さんと福永紙工との恊働※プロジェクトとして2014年にスタートした組み立てキットのプロダクトブランド「gu-pa(グーパ)」。
これまで「head box」「FACE POP UP CARD」「TOP TO TAIL」の3シリーズを発売。福永紙工のオンラインショップ「かみぐ」にて購入できる。
■HP(ショップ) www.kamigu.jp
■HP(商品紹介) www.fukunaga-print.co.jp/gu-pa

紙の組み立てキット「gu-pa(グーパ)」

※恊働・・・「心を合わせて働く」の意味で、意図的に「恊」の字を使用しています。

和田恭侑 さんの著書 「紙の箱と器」(2013年・文化出版局)

普段の生活を楽しくする実用的なペーパークラフト作品を集めた初の著書。作品の展開図と型紙、作り方のほか、特殊な折り方も紹介され、紙でつくる造形の楽しさを味わえる。

和田恭侑 さんの著書 「紙の箱と器」(2013年・文化出版局)