紙と灯りの立体アート「青森ねぶた」|vol.40 2019 SUMMER|TSUNAGU WEB

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vol.40 2019 SUMMER 紙と灯りの立体アート「青森ねぶた」

紙と灯りの立体アート
「青森ねぶた」

東北三大祭りのひとつに数えられる、「青森ねぶた祭」。
その主役として観客を熱狂させる巨大な灯籠人形「ねぶた」は、
紙と灯りの巨大な立体アートとして、
世界からも高い人気を博しています。
針金を自在に操ることで生まれる複雑な曲線美と
色鮮やかに着色された和紙を透過する光の繊細な表現。
「ねぶた」の美しさには、北国に生きる人々が郷土の文化を守り抜こうとする、
ひたむきな情熱が詰まっています。

竹浪 比呂央さん

ねぶた師・造形作家

竹浪 比呂央さんHIROO TAKENAMI

1959年、青森県西津軽郡木造町(現:つがる市)生まれ。東北薬科大学(現:東北医科薬科大学)卒業。1989年に初の大型ねぶたを制作。以後、ねぶた師として毎年新作を発表し、ねぶた大賞、第30回NHK東北放送文化賞など多数受賞。2010年、ねぶたの創作と研究、情報発信、後継者の育成を目的に「竹浪比呂央ねぶた研究所」を立ち上げ、ねぶたによる新たな表現の可能性を追求し続ける。
■竹浪比呂央ねぶた研究所HP:takenami-nebuken.com

「青森ねぶた祭」の由来には諸説あるものの、奈良時代に中国から伝わった七夕祭の灯籠流しが変形したものとする説が有力です。その「七夕祭」に、津軽地方で伝承されてきた習俗と精霊送り、人形、虫送り等の行事が一体化したものが「ねぶた」と呼ばれる灯籠に変化したと考えられています。

出典:「青森ねぶた祭 オフィシャルサイト」
HP:www.nebuta.jp

芸術的価値を高めることが、
ねぶた文化の継承につながる

青森県青森市で毎年8月に開催される「青森ねぶた祭」。街全体が熱狂の渦と化すこの祭りには、毎年250万人を超える見物客が訪れるなど、東北さらには日本を代表する伝統行事として、国際的にも広く認知されています。青森ねぶた祭のハイライトは、巨大な人形灯籠を乗せた山車のパレードです。「ねぶた」と呼ばれる山車は、大型のもので高さ約5メートル、幅約9メートル。極彩色とそれをねじ伏せるような力強い墨の線で描かれる立体的な武者像は、鬼気迫る異風な魅力を放ちながら闇夜に浮かび上がり、生命を宿したように迫力の立ち回りを演じます。

❶〜❸ 2018年の青森ねぶた祭に出展した作品。❶/最高賞の「ねぶた大賞」を受賞した「岩木川龍王と武田定清」(青森菱友会)、❷「風神雷神」(JRねぶた実行プロジェクト)、❸ 「大海原の神金毘羅大権現」(マルハニチロ侫武多会)。❶・❷は竹浪さん、❸は竹浪さんの弟子・手塚茂樹さん制作による作品。

 薫風香る5月、陸奥湾に面した青い海公園に白い大型テントが立ち並ぶと、青森市民の心が色めき立ちます。青森ねぶた祭の主役となる22台の大型ねぶたがつくられるこの制作小屋は〝ねぶたラッセランド〟と呼ばれ、各小屋の制作スタッフが忙しく行き交う様子が窺えます。 「ねぶたは、1年掛かりでつくるんですよ」。そう話すのは、制作者として約30年間、毎年大型ねぶたをつくり続ける竹浪比呂央さん。「小屋が立ち上がってからねぶたづくりがはじまると思っている人が多いけど、我々にとっては最終段階。頭の中では常に複数の構想を練っていますし、秋口には来年出す作品のデッサンに取り掛かっています」。祭りが開催される6日間のために1年をかけて題材を考え、骨組み、電気配線、紙貼り、色付けなど段階的につくり上げられるねぶた作品。そこにはねぶたづくりに携わる人々の並々ならぬ思いがあります。

大型ねぶたは、制作総指揮を担う「ねぶた師」と呼ばれる作家を中心に、約40名のチームを編成。角材で支柱を組む大工のほか、内部に約1000個もの電球・蛍光灯を取り付ける配線工、できあがった骨組みに紙を貼るスタッフなど、専門スキルを持った熟練のスタッフが入れ替わりながら一台のねぶたを仕上げていきます。「でも、すべてのスタッフがねぶたづくりを職業としているわけでなく、大半が別の仕事をしながらボランティアとして協力してくれているんです。ねぶたは下絵をもとに設計図なしでつくっていきますが、長く一緒にやっている人ばかりなので作家のイメージを共有しやすく、大型ねぶたをつくることを目標にしている作家志向のスタッフもいるので、彼らと相談しながらより大きな驚きを与える作品にするための試行錯誤を続けています」。

❹・❺ 2019年用のねぶた作品制作の様子。
❻ 大型ねぶたを制作する「ねぶたラッセランド」。7月1日から8月6日までの期間は、ガイドの解説とともに小屋内を見学することができる。

かく言う竹浪さんもねぶただけでは食べていくことができず、ほかの仕事を掛け持ちしながらねぶたを制作していた時期があったそうです。「私の出身地であるつがる市にもねぶたの文化があって、子どもの頃から制作の様子を眺めていました。小学3年生になるとねぶたづくりを手伝うようになり、いつかは青森の大きなねぶたをつくりたいと思っていましたが、中学、高校と進むにつれてそれを職業にするのは難しいことを知るわけです。将来の生活を考え薬剤師の道に進みましたが、それでも仕事が終わった後の夜間と休日だけ、師匠の元でねぶたづくりの修行に明け暮れました。その努力が認められ30才を前に大型ねぶたを発表できた際は、すごくうれしかったですね。子どもの頃からの夢を実現したことで、安定した生活へ戻ろうかとも考えましたが、薬剤師よりもねぶたづくりに専念するほうが〝自分らしい〟と感じ、35才のときに一念発起。はじめは収入を得るために週2日の非常勤として薬剤師の仕事もしていましたが、徐々にねぶたに主軸を置いた生活へとシフトすることに。応援してくれる方々のおかげで、今ではねぶたの制作だけで生活ができるようになりました」。

❼ 米国・ロサンゼルスで行われた二世週祭のパレードに出陣した竹浪さん制作のねぶた作品。
❽ ホテル雅叙園東京「和のあかり×百段階段」にて展示された、竹浪さん制作のオブジェ作品「相馬太郎良門 妖術を修る」。

青森ねぶた祭は、1970年に大阪で開催された万国博覧会への出展、翌71年から84年まで東京・神宮外苑で開催されたイベント「日本の祭り」に毎回参加したことで、その知名度は一気に全国区に。80年には国の重要無形民俗文化財の指定を受け、日本を代表する盛大な祭典に発展したにもかかわらず、竹浪さんはその将来を危惧しています。「私がそうであったように、大型ねぶたをつくりたいという若者がたくさんいます。しかし現状、ねぶたづくりだけではご飯を食べていくことはなかなか難しい。彼らを受け入れ、育てていく環境がなければ、ねぶた自体がなくなってしまうかもしれないと思っています。その芸術性と価値を高めること、ねぶた文化を未来に受け継いでいくためにも、経済的な環境を整える必要があるんじゃないかと。そのためにも、祭りのためのねぶただけでなく、ねぶたの技法を生かした造形作家として生きる道を切り開きたいと思っています」。竹浪さんは、2010年に「ねぶた研究所」を開設。若手作家の創作活動のためにアトリエを提供、企業とのコラボレーションによる作品提供や発表の場を広げることで、ねぶたの後継者を育成する活動を続けています。

❾ 若手作家の創作活動のために、アトリエを提供。
❿ 竹浪さんに師事し、2014年にねぶた師としてデビューした手塚茂樹さん。

竹浪さんがねぶたの新たな表現方法としてその可能性に注目しているのが、色付けする前の白いねぶた。京都造形芸術大学では、1年生全員が取り組む基礎力養成プログラムとしてねぶたの技法を使った白い紙の造形作品「京造ねぶた」をつくるグループワークを実施。竹浪さんは制作アドバイザーとしてこの授業に参加し、学生の創作を支えています。「教えるというよりも、学生の作品を見たくて続けています。ねぶたの伝統技法を用いたフレームアートでもあり、光の陰影を生かした提灯でも灯籠でもない真っ白な立体造形物。それが芸術作品として評価されるようになれば、新しい展開が生まれるんじゃないかと思っています。この大学での授業をきっかけにねぶたにはまってしまった学生が、驚くことに青森の企業に就職し、私のところでねぶたの技法を学んでいます。彼らは民俗行事としてのねぶたではなく、造形表現の面白さを入り口として、ねぶたの世界に飛び込んできました。彼らのような若い作家の受け皿をつくることで、ねぶたの芸術性の向上につなげていきたいですね」。ねぶた独自の伝統技法と、固定概念にとらわれない新しい感性を組み合わせる柔軟な姿勢。竹浪さんの挑戦には終わりがありません。

着色前の白いねぶた。内側に光を灯すと針金のフレームの線が浮かび上がり、独特のニュアンスを持つ美しい陰影をつくり出す。

「ねぶたの伝統で変えてはいけないことが3つあります。内側から光を発することと、ねぶた自体は可動せず躍動感のある表現をすること。そしてもう一つは、紙でできていることです」。ねぶたに使用する紙には、公文書や浮世絵版画にも使用されてきた奉書紙を用いるのが通例でした。「私もかつて四国や越前の奉書紙を使っていましたが、今はロール状になった業務用障子紙に切り替えています。奉書紙は、墨のノリや発色も良く、艶があるので申し分ない紙なのですが、残念ながら水に弱い。以前、待機中に数分間のゲリラ豪雨に降られて、奉書紙がドロドロに溶けてしまったことがあったんです。耐久性を考えると変えざるを得ず、奉書紙から障子紙に切り替えました」。かつて、ねぶたの骨組みに使用されていた竹が針金に、内部に仕込む光源がロウソクから白熱球や蛍光球、LED電球に変化してきました。「ねぶたは時代とともに進化するもの」という竹浪さんの言葉どおり、伝統を守るための変革こそが青森ねぶたの真骨頂なのです。 「青森人にとってねぶたは〝これがなければ生きていけない〟と言ってもいいくらい大切なものだし、生活の一部なんです」。8月2日〜7日の6日間にわたって青森の街を埋め尽くす光には、ねぶたを愛してやまない人々の情熱が詰まっています。

ねぶたの魅力を世界に発信することを目的として、ねぶたの意匠や実際にねぶたに使用した欠片を使ったプロダクツを開発。
■「ネブタ・スタイル」 HP:nebutastyle.com

青森ねぶたの魅力を、年間を通して体感できる「ねぶたの家 ワ・ラッセ」

青森を訪れた際には必ず立ち寄りたい人気の観光スポット。青森ねぶたの起源や歴史、ねぶた師の系譜などについて、映像や造形物を使ってわかりやすく紹介する多彩な展示をはじめ、祭りを盛り上げる跳人(はねと)、太鼓や鉦(かね)などの囃子演奏を体験できる企画イベント、地域の特産品を使用したカフェ・レストランやねぶた関連グッズを扱うショップが併設されるなど青森ねぶたの魅力を多角的に堪能することができます。一番の目玉は、広い吹き抜けのホールに展示された4台の大型ねぶた。祭り当日は数秒で通りすぎてしまう本物のねぶたを、あらゆる角度から間近で鑑賞することができます。

(公社)青森観光コンベンション協会佐々木 琢也 さん

2011年の開館以来、近隣各県はもちろん、西日本や海外からも多くのお客さまにご来館いただいています。より深くねぶたに親しんでもらうために、さまざまな体験イベント、ワークショップなどの催しを企画していますので、ぜひ一度お立ち寄りください。また当施設は観光施設としてだけでなく、ねぶた文化を継承する役割も担っています。近隣の子どもたちにも、地域で守り伝えられてきた貴重な伝統文化であるねぶたへの関心を高めてほしいと思っています。


■ ねぶたの家 ワ・ラッセ
住所:青森県青森市安方1-1-1 TEL:017-752-1311
HP:www.nebuta.jp/warasse

青森ねぶた祭2019

会期
8月2日(金)〜7日(水)
※8月1日(木)に前夜祭を実施。
会場
青森市中心部
料金
無料(有料観覧席あり)
問合せ
(公社)青森観光コンベンション協会
TEL
017-723-7211
HP
www.nebuta.jp
日 程 時 間 運航スケジュール
8/1(木) 18:00〜21:00頃 前夜祭 【青い海公園特設ステージ】
19:30〜20:40頃 第71回浅虫温泉花火大会 【浅虫温泉】
8/2(金) 19:10〜21:00 子供ねぶた(約15台予定)
大型ねぶた(約15台予定)の運行
8/3(土)
8/4(日) 19:10〜21:00 大型ねぶた(約20台運行予定)
※6日にねぶた大賞ほか、各賞を発表
8/5(月)
8/6(火)
8/7(水) 13:00〜15:00 大型ねぶたの運行(約20台運行予定)
19:15〜21:00頃 第65回青森花火大会・ねぶた海上運行 【青森港】