日本製紙はこのほど、熊本大学、福岡建設と共同で、海底浚渫土とペーパースラッジ(=PS)燃焼灰を混合した、環境に優しい土木材料の開発に成功した。熊本港エリアでこれを使った護岸の実証実験を行った結果、干潟の生物多様性の回復を確認した。今後は新海洋土木材料として事業化を目指す。
浚渫土とは、水深を深くするために海底などを掘削した時に出る土砂。港湾では近年、船舶の大型化や港湾機能の高度化ニーズに対応するため、航路の拡幅・増深などの目的で浚渫事業が実施されており、今後も継続される方向にある。 浚渫事業によって発生する海底浚渫土は全国で年間2,000万にも及ぶが、これらは軟弱な粘性土であることが多く、処分は主に海面の埋め立てに利用するという方法で行われてきた。しかし近年は、処分場の確保に困窮する状況にあり、その利用法の検討が急がれていた。また、内海や内湾といった閉鎖海域では、海岸線の人工化や干潟の埋め立てによって自浄作用が衰退し、海底堆積物がヘドロ化して生物の変化や減少をもたらす環境問題も生じている。
日本製紙と福岡建設が開発した土木材料は、浚渫土の新しい利用法であると同時に、干潟の環境改善にも役立つという点で期待される。製紙工場で発生するPS燃焼灰は、吸水性に富み水分と反応して固まる性質があるが、この性質を活かし、水分の多い海底浚渫土を混練・造粒して作られたのが今回の材料だ。PS焼却灰は日本製紙・八代工場で発生したものを使った。
一方、熊本大学では、沿岸域環境科学教育研究センターの滝川清教授の研究グループが、干潟なぎさ線の回復のため、熊本港エリアで「エコテラス護岸」(防災機能だけでなく生物生息環境や親水機能に配慮した護岸)に取り組んできた。そして今回、エコテラス護岸に両社が開発した新規材料を使用したところ、アサリの稚貝などが多数発生し、生物多様性の回復に役立つことが確認できたもの。
日本製紙では、「この新規材料には、海域の浚渫土や堆積泥といった廃棄物を活用できるだけでなく、干潟なぎさ線、すなわち生物多様性の場を回復できるという二つのメリットがある。今後は、干潟環境回復だけではなく、SCP工法(砂杭を地中に造成して軟弱地盤を改良する工法)の材料など、海洋土木工事で幅広く使用できる材料として用途開発を続ける」としている。
株式会社 紙業タイムス社 「Future 3/21号」より