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海外動向トピックス
欧州市況(5月度)
北米市況(5月度)
中国・香港市況(5月度)
海外情報トピックス
*北米における非塗工上質紙の生産削減 米国のPixelle Specialty Solutionsは、オハイオ州のChillicothe工場を閉鎖し、同工場での非塗工上質紙の生産を削減することを発表した。この工場では年間40万トンの非塗工上質紙が生産されており、北米市場における大幅な生産能力の削減となる。昨年末にはInternational PaperのGeorgetown工場(サウスカロライナ州)が閉鎖され、約30万トンの上質紙系の生産が削減されており、これに続く動きである。IP/Georgetownの減産により、北米の上質紙の供給は引き締まり、年初より価格上昇基調にあり、3-4月に累計で$40-の値上がりとなった。3月度の北米メーカーの稼働率は93%(昨年は88%)と急速に改善している。 北米市場の需給バランス改善が期待される一方で、関税問題は現在90日間の発動保留期間にあり、今後の進展は各国との交渉に委ねられているが、輸入品の供給に懸念をもたらす可能性があるため、即座に政府関係者と企業側は、Chillicothe工場の長期的な再建の道筋を探るべく、とりあえず閉鎖することを「一時停止」し、年末までは操業を継続することを、上記の発表から数日後に改めて発表しなおした。 北米の非塗工上質紙の生産量は、2023年度の630万トンから2024年度末には590万トンへと約5%削減となった。本年度は、IP/Georgetown工場の閉鎖(とPixelle/Chillicothe工場が年末までに閉鎖となれば)520万トン程度にまで減少する見込みである。今後の輸入関税の動向と北米メーカーの供給状況への注視が必要である。北米の上質紙メーカー毎の生産量は、Domtarが首位で195万トン(全体の37%)、Sylvamoが132万トン(25%)、PCAが50万トン(9%)、Pixelleが33万トン(6%)となっている。 *欧州市場における段原紙の新マシン稼働 オーストリアのHeinzelグループは、Laakirchen Papie工場での11号機を再生段原紙に転抄する計画を進めていた。当初は2023年半ばの稼働を予定していたが、コロナ感染拡大やロシアのウクライナ侵攻などの影響で度々延期されていた。しかし、本年4月上旬にようやく稼働に漕ぎつけた。生産能力は当初の年産55万トンから47万トンに下方修正されたが、2026年度中にはフル生産を目指している。ターゲット市場はオーストリア、イタリア、ドイツ、ポーランドなどである。 欧州市場では、今年度中に複数の段原紙の新マシンの稼働が予定されており、市況の一層の軟化が懸念されている。フランスではNorske SkogのGolbey工場1号機が新聞用紙から転抄し、4月末に稼働した。また、イタリアのMondiのDuino工場も第2四半期中に稼働を控えている。また更に2026年以降に稼働が後ろ倒しとなっているものもあり、これにはDS Smith&IP新会社のPorcari工場(イタリア)/Eren Paper(親会社トルコModern Karton)のShotton工場(英国)/Hamburger Container(トルコ)/Stora EnsoのLangerbrugge工場(ベルギー)などが含まれる。 *欧州委員会(EC)によるEUDRの実施要項の簡素化 欧州委員会(EC)は、昨年12月30日に発令された森林破壊防止規制(EUDR)の実施を容易にするため、規制の簡素化を行った。ECはガイダンス文書と頻出質問事項を更新し、大企業がEU市場内で流通した商品を再輸入する際に、既存のデューデリジェンス報告書(DDS)を使用できることを認めた。また、輸入の都度DDSを提出するのではなく、年度ごとの提出を義務付けることや、サプライヤーから入手したDDSの参照番号を記載することで提出できることも認めた。これにより、企業側の管理コスト負担が約30%軽減できると期待されている。ECは最終的に実施細目を法制化し、各国ごとのカントリーベンチマーク制度を導入することを目指している。 *北米における段原紙の生産削減 北米における段ボールの需要は、2022年以降減少傾向にあり、今年に入り第1四半期も実出荷量で前年同期比▲2.1%と低調に推移している。この需要の低迷は、供給過多にある段原紙生産メーカーに大きな影響を与えている。 段ボールの需要減少に伴い、北米の段原紙生産能力はここにきて大幅に削減が行われている。2023年末から2025年8月までの約20か月間で、約300万トンの生産能力が削減される予定である。具体的には、2023年末にInternational Paper (IP)がテキサス州のOrange工場で80万トンの生産を停止、今年に入ってからIPはルイジアナ州のRed River工場でも80万トンの生産を3月に停止した。さらに、Griefがマサチューセッツ州のFitchburg工場で約10万トンの再生段原紙マシンを5月に停止する予定である。直近では、IPと並び世界最大手の段原紙メーカーSmurfit Westrockも、7月にテキサス州のForney工場で38.5万トンの再生段原紙の生産を停止、またGeorgia Pacific(GP)のジョージア州Ceder Springs工場でも、8月までにKLB/中芯合計102万トンの生産停止が発表された。 これらの生産能力削減は、段ボールの需要が低調であることに直接結びついており、メーカーは市場の実需に対応するために生産を調整している。段ボールの需要が回復する兆しが見られない中、段原紙の生産能力削減は今後も続く可能性がある。
北米市況
「新聞用紙」 北米市場の新聞用紙の需要は減少し、第1四半期の見かけの消費は前年比▲6.6%となった。 北米メーカーの生産量も減少しているが、輸出が全出荷の51.2%を占めており、輸出への依存度が依然として高い。カナダ品の輸入関税懸念は緩和され、供給リスクは減少したが、需要は依然低調である。2024年度の米国市場の需要は約90万㌧、そのうちカナダからの供給が半分を占める。輸出の減少が続けば更に生産能力の削減が必要となり、輸出動向に注視が必要。 [上質紙] 米国市場では輸入関税の影響で不確実性が高まり、第1四半期は輸入品で在庫確保が進んだ。第1四半期の需要は前年比▲0.6%で、輸入品は需要の15.2%を占めた。生産稼働率は急速に改善したが(3月は93%)、生産削減による供給の引き締まりが背景にある。値上げは3-4月で段階的に$40-程度受け入れられた。その後の価格修正の動きは見られない。 [コート紙] コート紙の需要は依然として減少しており、カナダ・その他アジアからの輸入品への依存度は高い。北米メーカーの生産稼働率も改善しているが(3月は86~92%)、これも上質紙同様、生産能力の大幅削減によるもの。関税問題の影響は発動の保留後、現在一時的に小休止しているが、今後は為替の動向(ドル安傾向)が輸入品の価格に影響を与える可能性が大きい。早速欧州系メーカーは価格上乗せを発表、値上げ圧力が強まることを予想。 [中質紙] 第1四半期の需要は前年比▲0.3%で、好調だった昨年同期同様好調である。カナダ工場からの出荷が80%以上を占め、その他の輸入品の割合は低く、関税問題の影響は受けづらい。他の印刷用紙からの代替需要も期待され、比較的安定した市況を予想する。 [段原紙] 米国の段ボール実出荷量は第1四半期が前年比▲2.1%と減少となった。段原紙の生産はこの間微増だが(+0.6%)、輸出は減少しており(▲7.7%)、特にメキシコと中国向けは低調。 段原紙の値上げは2023年後半以降累計$120-に及ぶが、ユーザー側の抵抗が強くなり、段ボールへの価格転嫁は進んでいない。段原紙の供給過多は負荷となっており、ここにきて急速に生産能力の削減が進められており、今後の需要動向と供給環境に注視が必要。
欧州市況
[新聞用紙] 第2四半期の契約交渉では、価格は第1四半期比でほぼ横ばいの決着となった。欧州メーカーは原燃料等コストアップ分を価格に転嫁しようと試みたが、低調な需要とカナダ品の攻勢等により、方針の変更を余儀なくされている。 [非塗工上質紙] BurgoやSappiなどが4月以降の価格引き上げを打ち出したが、需要の低迷、供給過多に加えて、米国の追加輸入関税発動による市況への更なる影響を懸念し、ユーザー側でも様子見の姿勢が窺われるようになった。主要市場で逆に価格は下落しており、値上げは5月に持ち越されるも、市況は低調で非常に厳しい状況が予想される。 [コート紙] Burgo、Lecta、Sappiなどが4月分以降の価格修正を発表したが、需要は依然低調で、値上げは事実上断念せざるを得ない状況となった。4月度はなんとか価格は現状維持に留まった。 メーカーの稼働率はコート紙全体で概ね75%前後で推移している。 Kabel Premiumが再建を目指し生産を再開したが、売却先の有無が注目されている。 [段原紙] テストライナーはスペイン・英国等で3-4月になり今年初めて値上げが実現したが、ドイツ、フランスでは2月に続く4月の再値上げはユーザーの抵抗で難しい状況で、持ち越しとなった。クラフトライナーも値上げを表明しているが、南欧地区でドル安を背景に北米品が値上げを実施しておらず、こちらも持ち越しとなった。
中国・香港市況
[印刷用紙] 中国市場のコート紙は、雑誌・カタログの需要は減少が続いている。米中貿易摩擦による相互追加関税の発動が、市場にどのような影響を及ぼすかは全く不透明であり、市場は一様に様子見ムードが広がっている。紙市況が依然として低調で、パルプ価格にも下落の兆候が表れていることから、現状値上げが難しく、逆にユーザーからの値下げ要求に応じるケースも見られる。香港市場では、旧正月明けに値上げアナウンスがされたが、需要低迷が続き、ユーザーからの値下げ要求が強まった。パルプ価格も下落の兆しがあり、市場価格は下振れしやすくなっている。米国の関税問題の影響で、注文取り止めも出始め、需要の一層の減少が深刻である。 中国市場の上質紙は、印刷需要がデジタル化の影響で緩やかに減少が続いている。構造的な市況低迷に加え、米中貿易摩擦が印刷物の輸出案件にも影響しており、更に低調な状況が加速している。国内パルプの小売価格、輸入パルプともに価格に下落が見られ、平均価格は概ね軟化傾向にある。香港市場では、春先の出版物関連の需要も最盛期であるにも関わらず低調で、荷動きも停滞している。メーカー・流通業者ともに、受注を削減、在庫の削減を優先せざるを得ない状況で、価格は更に下落している。 [段原紙及び板紙] 中国市場では、4月前半に古紙パルプの価格が上昇し、中芯・ライナーの値上げが各メーカーから発表された。しかし、米中貿易摩擦の影響から段ボール需要は低迷しており、ユーザー側が積極的に在庫の積み増しをしないため、荷動きは非常に低調で、段原紙の価格は更に下落となった。追加関税の行方により、今後の市場動向には依然として不確定要素が多く、心理的な不安から、在庫削減を優先する傾向にあるため、市況は暫く軟化基調に推移すると予想される。 香港市場では、アイボリーの需要が減少、供給過多となっているため、サプライヤーはユーザーからの値下げ要求に応じざるを得ない状況である。流通側は米中貿易摩擦の影響で、在庫削減を優先するため、暫く値下がり基調が続く見通しである。白板紙はアイボリー市況と同様、旧正月明け以降価格は下落しており、4月に更に大きく下落となった。原材料の古紙は比較的安定した価格推移となっているが、販売価格の引き上げは難しく、メーカーの採算は一層厳しくなっている。
日本紙類輸出組合・日本紙類輸入組合 紙類海外動向レポートより